内部統制を理解する
内部統制の限界
内部統制が限界となる4つのケース
内部統制が十分に整備され、「内部統制報告書」によって有効性が証明されていても財務諸表の信頼性が完全に保証される訳ではありません。
「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」では、 内部統制が有効に機能しない4つのケースを指摘しています。
- 内部統制は、判断の誤り、不注意、複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合がある
- 内部統制は、当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等には、必ずしも対応しない場合がある
- 内部統制の整備及び運用に際しては、費用と便益との比較衡量が求められる
- 経営者が不当な目的の為に内部統制を無視ないし無効ならしめることがある
ミスや不注意、共謀による限界
内部統制では、複数の担当者による相互チェックと複数承認の機能に対する仕組みを構築します。
そのため、ミスや不注意、また判断ミスによる問題の発生にに対して、非常に大きな効果を生み出します。しかし、チェックや承認が人の手によって行われる以上、完全に防ぐことは出来ません。
また、複数メンバーによって共謀が発生すると、構築した相互チェックや複数承認の機能が意味を持たなくなってしまいます。
重要なことは、ミスや不注意、共謀に対する内部統制の限界点を知り、組織異動を定期的に実施する、業務の各動作のログを第三者の手によって確認するなど、その限界に対して、さらに適切な対応をとる仕組みを導入することで、より内部統制の完成度を高めることです。
不測事態、非定型取引による限界
内部統制では、現在の事業活動で抱えるリスクや、現在の業務に対する文書化など、あくまでも、想定している範囲の内容に対して取り組むことが基本となっています。
そのため、環境の変化や突発的に発生した大きな取引など、内部統制構築時に検討されていない内容に関しては、機能しなくなることがあります。
このような場合に備え、内部統制で規定されていない事象が起きたときの経営者への報告方法や、権限の委譲の方法など、どのように対処するかを予め定めておくことが重要となります。
費用対効果が上回るときの限界
内部統制では、最終的な完成状態というものはなく、継続的に改善が図られていきます。
そのため、完成度を高めるための取り組みは際限がなく発生します。一方で、内部統制の導入に対する優先度は、取組むほどに低下し、費用に対する効果は減少していきます。
そのため、必要以上の資金投入を行うよりも、企業を取り巻く環境や規模、業種を考慮して、実現しうる適正な内部統制を導入し、中長期的な計画や予算に合わせ、機能を高めていくことが大切です。
経営者の悪意による限界
内部統制は、経営者自らが財務諸表の信頼性を確保するために、率先して整備・運用を図ることが前提とされています。
そのため、不正やミス、問題点が指摘されたとしても、利益を追求するあまり、経営者自身によって対応を無視したり、事実を歪曲したりする場合には、たとえ完成度の高い内部統制が構築されていたとしても機能しなくなります。
経営者の不正をチェックする組織として、取締役会や各種委員会の存在もありますが、中小企業に多くみられる独裁的な経営者がいる企業の場合には、その不正をチェックすることは困難となります。
経営者は、内部統制の重要性をよく認識し、自身が手本となって不正に対する厳しい姿勢を持つことが、内部統制の鍵を握るのです。